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他人の顔

安部公房 著

仮面をつけるだけで
他人になりきれるのか

液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男……失われた妻の愛をとりもどすために“他人の顔”をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男の自己回復のあがき……。特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、“顔”というものに関わって生きている人間という存在の不安定さ、あいまいさを描く長編。

◇感想と解説

顔。それは体の中でもとても大事な部分である。顔は世間に向いていて、世間と接している部分だ。
その顔を失ってしまったら…。安部公房の世界には、名前を失うなどして社会とのつながりを絶たれ、アイデンティティーも失って自分が何者か分からなくなってしまった人の物語が時々出てくるが、この小説の主人公は顔を失う。顔も名前と同じように自分を自分としているもの、社会との繋がり、アイデンティティーの象徴になるのではないか。
そしてこの男は失った顔の変わりに精巧な仮面を作って他人になろうとする。

成りすましは大変な作業だ。ルパンかっ!!ちゅうくらいレベルの高い技術を駆使して、彼は仮面を作る。その試行錯誤の描写が細かくてグロくて、まさに怪物誕生といった雰囲気だ。
だがしかし…。いくら上手に仮面を作ったからって、身近な人、特に家族とか恋人は騙せるだろうか…。だって体は本人なわけでしょう??

ここで私はジョン・トラボルタ&ニコラス・ケイジ主演の 『フェイス/オフ』 を思い出す。良い者と悪者の顔が入れ替わっちゃう話なんだけど、奥さんとか気が付かないのかしら?? って突っ込みたくなるような映画なのだ。まあ、そんなところを気にしてはいけない映画なんだろうけどww

って脱線の疑問は置いておいて…。

結局のところ顔なのだ。人間社会は顔に左右されているのには変わらない。
脳科学でもそう証明されている。
これは顔に囚われた社会から離脱しても、やっぱり顔に囚われてしまった男の物語なのだ。

本作品は勅使河原宏監督によって映画化している。

▼ネタバレを開く

顔を失った男は、仮面を作って他人に成りすまし、妻に近づく。妻が自分を裏切るのかどうかを試すという悪趣味な目的のために。
だが、妻は自分が相手をしているのは仮面をつけた夫であるとわかって付き合っていた。

そりゃそうだ。上にも書いたけど、奥さんくらいになったら、いくらなんでも体が本人だったら気が付くだろう。よく結婚式で、花嫁が目隠しをして何人かの男性と握手をして花婿を当てるというゲームをするが、ほとんどの場合、手を握るだけで花嫁は自分のパートナーを見つけられる。
反対に、花婿が花嫁を探すゲームだったらもしかしたら当てられないかもしれないがw

本作品ではそれがうまく描かれていて面白い。
仮面をつけただけで、妻を騙せていると思い込んでいる男と、それが丸分かりな女。
男と女なんてこんなもんだ。そして時に男の変装は騙してるとは言えないくらいお粗末なもので、え!? 本気で騙してるつもりだったの!? と女はショックを受ける。

間抜けだ…。勝手な被害妄想にとりつかれて、妻が裏切るに違いないと彼女を騙すために必死に仮面の研究をし、いざ種明かし~この裏切り者~!! と詰め寄ったら、そんなの知ってました…と。そして、あなたが本気で私を騙そうとしてやってるとは思わなかったわとか言われ逃げられる…。ああバカだねぇ…。

男は失って初めて自分のバカさ具合に気が付くのだ。

◇情報

1964.日本

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