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方舟さくら丸

安部公房 著

悲しきモンスターが柄にもないことを…

地下採石場跡の巨大な洞窟に、核シェルターの設備を造り上げた〈ぼく〉。「生きのびるための切符」を手に入れた三人の男女と〈ぼく〉との奇妙な共同生活が始まった。だが、洞窟に侵入者が現れた時、〈ぼく〉の計画は崩れ始める。その上、便器に片足を吸い込まれ、身動きがとれなくなってしまった〈ぼく〉は―。核時代の方舟に乗ることができる者は、誰と誰なのか?現代文学の金字塔。

◇感想と解説

『方舟さくら丸』 を読むとどうしようもなく息がつまる。救世主となるべく〈ぼく〉の煮え切らない性格がそう思わせるのか。

〈ぼく〉は安部公房の作品の中でも強烈なキャラクターのひとりだ。核戦争がいずれ来ると信じて地下に核シェルターを作り、モグラのように暮らす〈ぼく〉。
私の中で〈ぼく〉は、フランケンシュタインの怪物やシザーハンズのように孤独で寂しいモンスターの一種となっている。見た目はたぶん『アダムスファミリー』のフェスター叔父さんみたいな感じと勝手に思っている。
映像にしたらきっとかわいい。

そんで、独りで引きこもっていた強烈なキャラクターの〈ぼく〉が、仲間を探そうとしたことによりバランスがくずれてズルズルになっていまうというお話。

この物語にはさまざまなアイテムが出てくる。
自らのクソを食べながら究極の自己解決で生き続ける虫 ユープケッチャとか。立体視できる航空写真とか、ものすごいトイレとか。トイレは本当にすごい。あんなのが終盤物語の象徴となっていくんなて…。

こうしてどんくさい〈ぼく〉にイライラしながら読んでいくと、徐々にこの〈ぼく〉という男の純粋無垢さに心を奪われていき、しまいには必死に応援してしまう。だがしかし、応援しても応援してもダメなやつで…。

ああ!! もうーー!!! バカー!!!

って最後まで気が抜けない。
そんな不思議な物語だ。

◇関連作品

短編集。『ユープケッチャ』 は 『方舟さくら丸』 の元ネタのような物語。

突如記憶が中断してしまい、謎に満ちた世界を手探りで行動する男。現代人の孤独と不安を抉り出し、『燃えつきた地図』の原型となった『カーブの向う』。自分の糞を主食にし、極端に閉じた生態系を持つ奇妙な昆虫・ユープケッチャから始まる寓意に満ちた物語、『方舟さくら丸』の原型となった『ユープケッチャ』。ほかに『砂の女』の原型『チチンデラヤパナ』など、知的刺激に満ちた全9篇。

◇情報

1984.日本

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