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死のロングウォーク

リチャード・バックマン 著

立ち止まったら死あるのみ

近未来のアメリカ。
そこでは選抜された十四歳から十六歳までの少年100人を集めて毎年五月に〈ロングウォーク〉という競技が行われていた。
アメリカ・カナダの国境から出発し、コース上をただひたすら南へ歩くだけという単純な競技だ。だが、歩行速度が時速四マイル以下になると警告を受け、一時間に三回以上警告を受けると射殺される。
この競技にはゴールはない。
最後の一人になるまで、つまり九九人が殺されるまで、昼も夜もなく競技はつづくのだ。
体力と精神力の限界と闘いながら、少年たちは一人また一人と脱落し、射殺されていく。
彼らは歩きながら、境遇を語り、冗談を交わし、おたがいを励ましあう。
この絶望的な極限状況で最後まで生き残るのははたして誰なのか―。
死と直面する少年たちの苦闘を描いた、鬼才キングの問題作、ついに登場。

◇感想と解説

これは、キングの別名、リチャード・バックマン名義で出版された本。

だが、実はこれ、キングが大学生のときに書いたもので事実上の処女長編となる。
そういった意味で、ファンの間で一目置かれている作品である。確かに内容が若い気がする。でも、ここには、将来世界的なベストセラー作家になる奇才の片鱗がざくざく転がっていて、決して青臭いだけの作品に留まっていない。その証拠に、アメリカの二十歳の学生が40年以上前に書いた本なのに今でも普通に売ってるし、売れている。

こんな若さゆえの残酷さを持った近未来SFを黙々と読んで、最後には感動すらしてしまうわたし・・・。

何なんだこの魅力は。

あらすじを読めばわかるとおり、この物語は、恐ろしいくらいに単純な設定の元に成り立っている。近未来アメリカってゆう設定もあいまいな感じだし、舞台もずっと道の上でただ歩いているだけ。まるで、簡単なシミュレーションプログラムの条件設定だけ決めたような世界。

なんかぬるい。

というか、なんだろう。
リアリティがない??

キングは衝撃的なゲームをやっている社会を書いて何かを訴えようとしたのではなくて、とっても特殊な極限状態を、ひたすら書きたかっただけだったのでは??

まるでディズニーランドのアトラクションのように整備されてコントロールされた極限状態。

用意された舞台に登場人物たちがうまいこと騙されて連れてこられたような雰囲気が漂う。

でもね、彼らのそばにあるのは紛れもない現実の「死」なんだ。

こんなテンションで命について書いている本なので嫌悪感を感じる人もいるかもしれない。キングの本をたくさん読んで、この著者の心の深遠に溢れかえる人間愛を知らないと我慢ならない作品かもしれない。

だけど、こんな物語でも、わたしは感じるんだ。
無表情な死の後ろにかくれた計り知れないキングの愛情を。

◇関連作品

バトル・ロワイアル

高見広春 著

『死のロングウォーク』 に影響を受けた作品。物語中に出てくる ≪城岩町≫ は、キングの小説に度々出てくる町、≪キャッスルロック≫ がもとである。

西暦1997年、東洋の全体主義国家、大東亜共和国。この国では毎年、全国の中学3年生を対象に任意の50クラスを選び、国防上必要な戦闘シミュレーションと称する殺人ゲーム、“プログラム”を行なっていた。ゲームはクラスごとに実施、生徒たちは与えられた武器で互いに殺しあい、最後に残った一人だけは家に帰ることができる。香川県城岩町立城岩中学校3年B組の七原秋也ら生徒42人は、夜のうちに修学旅行のバスごと政府に拉致され、高松市沖の小さな島に連行された。催涙ガスによる眠りから覚めた秋也たちに、坂持金発と名乗る政府の役人が、“プログラム”の開始を告げる。ゲームの中に投げ込まれた少年、少女たちは、さまざまに行動する。殺す者、殺せない者、自殺をはかる者、狂う者。仲間をつくる者、孤独になる者。信じることができない者、なお信じようとする者。愛する気持ちと不信の交錯、そして流血…。ギリギリの状況における少年、少女たちの絶望的な青春を描いた問答無用、凶悪無比のデッド&ポップなデス・ゲーム小説。

◇情報

1979.USA/The Long Walk

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複数の作品形態がある場合は、存在するものから ハードカバー/文庫/Kindle/DVD/Blu-ray/4K/Prime Video(字幕/吹替) の順番でリンクします。

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