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鬼太郎をめぐる旅

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先日、何気にWikiの鬼太郎のページを見ていたら「誕生の経緯」の項目にこんなことが書いてあった。

1933年から1935年頃にかけて、民話の『子育て幽霊』を脚色した、伊藤正美作の富士会の『ハカバキタロー(墓場奇太郎)』という紙芝居が存在し、『黄金バット』をも凌ぐほどの人気であった。

1954年、紙芝居の貸元である阪神画劇社と紙芝居作者として契約していた水木は、同社社長・鈴木勝丸に前述のハカバキタローを題材にした作品を描くよう勧められた。

ゲゲゲの鬼太郎 – Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%82%B2%E3%82%B2%E3%81%AE%E9%AC%BC%E5%A4%AA%E9%83%8E

鬼太郎のルーツについて、貸本時代くらいまでしか知らなかったので、その前に紙芝居があったとは知らなかった。
思いのほか歴史が古そうである。

伊藤正美? 子育て幽霊? と興味をそそられて調べてみたら、なんとも壮大な旅になってしまった。

せっかくなのでまとめてみる。

◇紙芝居 『墓場奇太郎』

ストーリーは、姑にいじめられて死んだ嫁が、お腹に赤ん坊がいるまま埋められ、その赤ん坊(奇太郎)が母親の死肉を食べて墓から出てきて復讐をするというものらしい。

わお。

子供に見せるにはグロすぎないかい。
でも昔の日本ってこういう感じよね。
今じゃありえないww

絵は辰巳恵洋(ケイ・タジミ)という人が描いたらしく、キタロウは見つからなかったけど他の作品の絵はあった。

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関係ないけど 『ハカバキタロー』 て字ズラ、なぜか 「バカヤロー」に見えてしまうのは私だけ??

◇怪談 『子育て幽霊』

戦前に流行っていた紙芝居 『墓場奇太郎』 は日本に広く伝わる怪談が元になっている。
その名も 『子育て幽霊』。
このお話は、『飴を買う幽霊』 として、落語にもなってる有名なものなのでどこかで聞いたことがある人も多いと思う。

ある飴屋さんで、店じまいをしたあとに、戸を叩く者がいて、出ると女が飴を売ってくれと言う。
それから毎晩その女が来るようになったが、7日目にもうお金がないから、羽織と交換してくれと言い出した。
飴屋はなんかかわいそうに思って飴と羽織を交換してやった。
で、翌日その羽織を干してると、通りかかった男が「これはいったいどうやって手に入れた」と聞いてきた。
飴屋が事情を話すと、男は驚いて「これは先日死んだ娘のもので棺おけに入れたもの。」と言う。
飴屋と男は、娘が埋葬された墓に行くと、地面の下から赤ん坊の泣き声がして、掘り起こしたら生まれたばかりの赤ん坊と、飴を握った女の死体があったそうな。

子育て幽霊 – Wikipedia (飴買い幽霊)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%90%E8%82%B2%E3%81%A6%E5%B9%BD%E9%9C%8A

確かに、この物語は鬼太郎の始まりを彷彿とさせる。
鬼太郎は、死んだ母のおなかから這い出て墓場から生まれる。

これの亜種みたいなちょっと設定の違う話もいっぱいあるよね。
この物語について調べてみると、だいぶ古くから日本に広まっていたらしいことがわかる。

京都にある、「みなとや」 という飴屋には、この飴を買う幽霊の言い伝えが残っていて、「幽霊子育飴」 というのを売ってる。

http://www.kyotokanko.com/s_minatoya.html

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なんだかこのお店の言い伝えは具体的で、幽霊が飴を買いに来てた年代までわかっている。
今から400年ほど前の、慶長四年 (1599年) のことだそうな。
まさに、徳川家康が天下をとる直前。
秀吉が死んで、関ヶ原の戦いが始まろうとしてるところである。

落語では、この物語はこの飴屋のわりと近くの 「高台寺」 というところが舞台になっていて、「子がだいじ」 という駄洒落がオチになってたりする。

これだけじゃなくて、この飴と母と子にまつわるお話は探せば探すほどいろいろなところに伝わっている。


静岡県には 「夜泣き石(よなきいし)」 というのがあって、ちょっと内容が異なるが、やはり死んだ女から生まれた子供が飴で育てられた、という言い伝えがあるそうで。

ここでも、子育て飴をお土産で売ってるみたい。

夜泣き石 (小夜の中山)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9C%E6%B3%A3%E3%81%8D%E7%9F%B3_(%E5%B0%8F%E5%A4%9C%E3%81%AE%E4%B8%AD%E5%B1%B1)


石川県の金沢にもこのような伝説が残るお寺がたくさんあるっぽい。

道入寺とか。
http://www.kanazawa-kankoukyoukai.gr.jp/sp_detail.php?sp_no=647

このお寺には、円山応挙の飴買幽霊の掛け軸があるそうで。
※円山応挙は足のない幽霊の生みの親として有名な画家。

これは飴幽霊の絵じゃないけど、応挙の有名な幽霊図。

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飴幽霊めぐりの旅もいいかもしれない。


三重県には、まんが日本昔ばなしの 『幽霊飴』 というお話の舞台となった飴屋があるらしい。
その名は 「飴忠」。

★Youtubeに動画があったんだけど消されちゃった。

桑名の伝説・昔話 幽霊飴
http://www.city.kuwana.lg.jp/index.cfm/24,11220,234,410,html

今はこの飴屋はないみたいだけど、8月になると赤ん坊が発見された墓のある寺 「浄土寺」 で幽霊飴が売られるそうな。

浄土寺
http://kanko.city.kuwana.mie.jp/history/jyodoji/


長崎にもある。

光源寺
http://www1.cncm.ne.jp/~k-naoya/

産女の幽霊
http://www1.cncm.ne.jp/~k-naoya/ugumenoyurei.html

藤原清永という宮大工が幽霊の恋人らしい。


こうしてみると、少なくとも江戸時代ごろには飴を買う幽霊の話は日本に定着してたんじゃないかと思われる。
では、この日本に広く伝わる怪談がどっから来たのか。。。
どうやら中国のようである。

◇中国の怪事 『餅を買う女』

1198年頃に書かれた 『夷堅志』 という今でいうオカルト本みたいなやつに、これとそっくりなお話が載ってるらしい。
青空文庫で日本語訳が読める。
ページ中ほどに 『餅を買う女』 がある。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/2237_11900.html

一気に 800年も時代が遡ったわ。
この本は、政治家であり学者であった洪邁(こうまい)という人がいろいろ見聞きした怪事や異事などをまとめたものだそうだ。
これを読むと、なんとなく、昔のことを書いてるっぽい感じなので、洪邁の時代にも 『餅を買う女』 は既に昔話だったのかなと想像ができる。

洪邁が生きた時代、日本は鎌倉時代である。

『餅を買う女』 が中国の民間に広まっていた古い幽霊話であるならば、日本にいつ伝わっていても不思議はなく、何百年もたつうちに、それってあそこの飴屋らしいよ、みたいになってもおかしくはない。

こうして、日本全国に幽霊が来た飴屋が存在することになったんじゃないかな。

同じく、中国にも幽霊の飴屋がたくさんあったりするのかな??

ここまでくると、このお話の出所はそうとう古いんじゃないかと想像しちゃう。

◇死んだ女が子を産む話

鬼太郎から辿っていったこれらのお話に共通してるのは、「死んだ女が子供を産む」 という設定である。
この設定の元ネタを探していくと、もっと古くまで時代をさかのぼることができるという。

『旃陀越国王経』

中国の仏典である。

でた。仏典。

旃陀越国王の夫人の一人が妊娠したが、他の夫人が嫉妬して嘘の告げ口をしたために、王はこの妊娠した夫人を殺してしまう。
夫人は塚に埋められたが、そこから子供が生まれて、彼は鳥獣と戯れて育つが、仏陀と出合って出家し、須陀(シュダ?)と名乗った。

ほとんど情報がないが、私がネット上で発見した物語はこんな感じだった。
中国の仏典は、インドから伝わったものから、中国で作成されたものまで様々な種類がある。

だから、必ずしもインドから来たお話とは言い切れないが、『旃陀越国王経』 は、沮渠京声【訳】と書いてあるので、 原本みたいのがあるってことかな?
つまり、インドから来た話の可能性もあるわけだよね??

沮渠京声って人は、探した限り中国語のページにしか情報がなくてよくわからないけど、4〜5世紀ごろのお坊さんらしい。
中国語のページを無理やり訳したら

沮渠京声-高僧大徳

沮渠京声(約4-5世紀間)にがっかりして、世安陽の侯を量っています。
その先祖は甘粛天水臨城県の胡人(匈奴族)です。
京音は河西の王沮渠が見劣りがする弟からをだますのです。

全く意味がわからん。。
まあ、ともかく、飴幽霊の元ネタが1500年前には既に存在してかも、ってことだ。

壮大すぎるわ。

◇ガンダーラへ

いろいろなサイトを調べていると、ガンダーラの仏教遺跡に 『死女が子を産む説話』 という像があるらしいことがわかった。
ガンダーラは紀元前6世紀〜11世紀ごろ、今のアフガニスタン〜パキスタンあたりにあった王国で仏教は1世紀ごろに伝わってきたようだ。

中国に伝わる 『旃陀越国王経』 は原本があってそれを翻訳したものらしいので、インドから来たお話である可能性は高い。
ガンダーラにも同じような 『死女が子を産む説話』 があるのは偶然ではないはずだ。

うわーー。その像、見たい〜!!!

って探したら、あった!!!!

わお、インターネットってホントすごいわ。
こちらのサイトに載っている。

http://www.eonet.ne.jp/~kotonara/y%20bunkatu-4.htm

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※写真拝借しました。

こちらのページには、ストーリーも載ってるけど 『旃陀越国王経』 とそっくりである。
やっぱり、『旃陀越国王経』 と 『死女が子を産む説話』 は同じものと考えていいみたいだ。

このサイトからは、この像がどこにあって何年くらいに作られたものなのかわからなかったけれど、これとよく似た像が、1〜3世紀ごろに作られているので、同じくらいの時代のものかな?

さて、あとは、この物語が、一体どっから出てきたか、そしてどういうルートで各地に伝わったのか、であるが。。。
さすがに、もうこれ以上はわからなかった。

この物語を読むと、唐突にブッダが出てくるので、仏教と無理やりくっつけた感が漂う。
仏教よりもっと古くからある物語である可能性もある。
(ゴータマ・シッダルダ(ブッダ)は紀元前5世紀頃の人)

たとえば、仏教が生まれたインド地方で昔からあったとか、『死女が子を産む説話』 のレリーフがあるガンダーラで元々あった話で仏教と合体して逆輸入されたとか。
いろいろ考えられる。

さらに言うと、ガンダーラの文化はギリシア文化の影響も受けている。
探してみたら、ギリシア神話にこの母と子の物語があったりするかもしれないとか思ったけど…

もうムリ… 探せない。

もしも、そうであるならば、鬼太郎のルーツは紀元前15世紀ごろまでさかのぼってしまうわ…!!!!

とにもかくにも、日本の国民的妖怪ヒーローのルーツをたどっていたらガンダーラまで行ってしまうという、なんとも壮大な旅だった。。

鬼太郎ってすごいなぁ。

2010.06.4
※記事の内容は私が独自に調べてまとめた内容なので間違いもあるかもです。そしたらごめん。

こんなことばかり考えている私がSF小説など書いてる

大橋ちよのnote

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